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消化器外科
はじめに
われわれ広島大学原医研腫瘍外科の消化器グループは、広島大学病院・消化器外科の一員として食道疾患(特に食道がん)の診療を行っています。当科は食道外科専門医認定施設であり広島県・中国地方の食道がん治療の中心を担うべく、最先端の高度な食道がん診療および食道外科専門医の育成を行っています。(日本食道学会・食道外科専門医2名在籍)
われわれは多くの専門科がある大学病院の特性を生かし、消化器内科、がん化学療法科、放射線治療科、耳鼻咽喉科・頭頚部外科、病理医、リハビリテーション科、歯科の医師や様々な医療スタッフと綿密な連携を取って、カンファレンスにより一人一人の患者さんの治療を検討しています。さらに患者さんとそのご家族と相談させていただいたうえで、治療方針を決定していきます。
食道がんをはじめとする悪性疾患から食道裂孔ヘルニアや食道アカラシアなどの良性疾患まで、ひとりひとりの患者さんに最善の医療を提供いたします。
食道がん
食道がんとは
食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ約25cm、太さ2~3cm、厚さ約4mmの管状の臓器です。性別では男女比が約6:1と男性に多く、年齢は60から70代に好発します。食道の粘膜は扁平上皮からなり、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。がんが大きくなると粘膜を超えてその外側にある粘膜下層、さらに筋層へと入り込み、さらに大きくなると食道の壁を貫いて食道の外(周囲臓器)まで拡がっていきます。
近年、食道胃接合部に発生する食道腺がんも増加しています。
診断
上部消化管内視鏡検査(拡大内視鏡、ヨード染色、生検)で診断します。通常の内視鏡検査に加えてNarrow Band Imaging(NBI)などの狭帯域光観察も併用します。また食道造影、超音波内視鏡検査、CT検査、PET検査で、深達度、リンパ節転移、遠隔転移の診断も行います。
治療
食道がんに対する治療には大きく分けて、内視鏡治療、手術(食道切除術)、薬物療法、放射線治療あります。病態や進行度に応じて単独で行ったり、それぞれの治療法の特徴を生かしながら組み合わせることで集学的な治療を行います。どの治療を選択するかについては、がんの進行度(ステージ)により決まります(図1)。ステージは、がんの浸潤の深さである深達度(T)、リンパ節転移(N)、他臓器への遠隔転移(M)によって決まります。患者さんの全身状態や希望などにより、同じステージでも異なる治療法を選択することがあります。
われわれは患者さんごとに、術前・術後の抗がん剤治療や放射線治療と手術を組み合わせた最適な集学的治療を行い、治療成績・予後の向上を目指しています。また当院での切除不能進行・再発食道がん患者さんの治療も担当しています。
当科での食道がん新規紹介症例数、手術全症例数は高い水準を維持しています(図2)。
図1
図2. 広島大学病院 腫瘍外科における食道疾患症例数の推移(2017年〜2022年)
食道がんの手術
食道がんに対する手術は、頚部・胸部・腹部の操作が必要な高難度手術であり、体への侵襲(負担)が非常に大きくなります。このため胸腔鏡や腹腔鏡を使用して、より精緻な手術を行い、傷を小さくすることで手術侵襲を軽減します。当科には日本内視鏡外科学会・食道がん手術技術認定医が2名在籍しており、近年では約9割の症例において、胸腔鏡・腹腔鏡での低侵襲手術を行っています(図3)。胸腔鏡下に胸部操作(食道切除術)を、腹腔鏡下に腹部操作(再建胃管作製)を行い、その後に頚部操作を行い、胃管を頚部まで持ち上げて再建・吻合を行います。
また2018年より食道がんに対するロボット支援下手術が保険適応になりました。当院でも最新機種であるDa Vinci Xiサージカルシステム(インテュイティブサージカル社)を2台導入しており、積極的に食道がん手術に取り入れています(図4)。
手術の安全性とともに重要なのが癌の根治性です。食道がんはリンパ節転移の頻度が高く、食道の切除のみではなく、再発を防止するために食道・気管・胃・頚部周囲のリンパ節郭清が重要です。われわれは病変の部位や深さによって、リンパ節郭清の最適な範囲を決めています。また、ステージ2以上の進行食道がん症例には、術前または術後に抗がん剤治療を、さらに症例によっては放射線治療も組み合わせた化学放射線療法を行い患者さんの予後向上を目指しています。
また、胃外科グループと協同で食道胃接合部がん症例や耳鼻咽喉科と協同で頚部食道がんや咽頭がん症例に対する手術も行っています。
図3. 胸腔鏡、腹腔鏡手術
図4. ロボット支援下食道切除術
食道がん周術期チーム医療
術後の早期回復や社会復帰にとっては、低侵襲手術だけでなく、診療科の枠を越えた専門性の高いチーム医療も重要な役割を果たします。当院では手術を含めた治療の際に、麻酔科、歯科、リハビリテーション科をはじめとする他科との連携を行っています。また食道がん診療に熟練した看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士などの様々な医療スタッフが関わり、患者さんがより快適に1日でも早くお元気になるようにサポートしています。
治療開始時から術前オリエンテーション冊子を用いて、入院から手術まで、また術後経過の流れや注意点などを説明します。術前の早期からの歯科の介入によって口腔ケアを行い、周術期合併症の予防に取り組んでいます。術前、また手術翌日から理学療法士の指導のもと、患者さんの状態に適したリハビリを行います。術後は言語聴覚士の指導のもと嚥下訓練を行い、栄養士からも退院に向けた食事摂取についての注意点を習得します(図5)。
また退院後も患者さんのかかりつけ医と診療情報の密なやり取りをすることで、円滑な日常一般診療に対する連携・協力を行います。これにより術後の長期経過観察中におけるQOL(Quality of life)の向上に取り組んでいます。
図5.周術期チーム医療
食道がんの薬物療法、放射線治療
食道がんは発見された時にすでに進行していることも多く、また根治的な手術を行った後でも再発される患者さんがおられます。われわれは、がん治療の専門医として外科的治療だけではなく、多くの進行・再発食道がん患者さんに対して最適な抗がん剤治療や、放射線治療科と協力して抗がん剤治療(化学療法)と放射線療法を組み合わせた化学放射線療法を行ってきました。
近年、食道がんに対して新たな薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)の有効性が示され使用できるようになりましたが、その治療は複雑化してきています(図6)。われわれは、これらの治療に臨床研究の段階から参加し、効果の高い新規治療法の開発にも取り組んできました。このため外科的治療だけでなく、食道がんの薬物療法にも精通しており、進行・再発食道がん患者さんに対しても最善の治療を行うことができます。
図6. 進行食道がんの薬物療法
食道がんに対する臨床研究・臨床治験・治験
当科では、進行食道がん患者さんに対する標準治療の確立と新規治療法の開発を目的として、全国レベルでの多施設共同臨床試験、自主臨床試験、新規治療薬(免疫チェックポイント阻害剤など)の治験を数多く行っています。患者さんによっては、これらの臨床研究・臨床試験・治験での新しい有望な治療を提案することができます。
また、分子生物学的手法を用いた食道がんの遺伝子解析により、診断マーカーや悪性度や予後に関わる因子の解明をすすめ、さらに個々の癌の個性に基づくいわゆる個別化治療を目指した基礎研究にも取り組んでいます。
食道がんに対するその他の治療
食道がん患者さんの中には食道狭窄、気道狭窄、食道気道瘻(ろう)などのためにQOL(Quality of life)が著しく低下する方がおられます。われわれは長年におよぶ治療経験の蓄積により、食道狭窄に対する食道バイパス術や食道ステント、気道系狭窄に対する気管ステントなどの症状緩和に対するノウハウも有しています。これらの手術や処置により患者さんのQOLを向上させることができます(図7)。
図7.
その他の食道疾患に対する治療
食道粘膜下腫瘍、食道アカラシア、逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、食道憩室、特発性食道破裂などの様々な食道疾患に対しても、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた低侵襲手術を行っています。