乳腺外科

乳腺外科

はじめに

乳腺外科
日本人女性のうち9人に1人は乳癌に罹患するといわれており、女性臓器別罹患数は第1位となっています。一方で、早期乳癌の治療成績は良好であり、女性臓器別の死亡数は第5位となっています。乳癌診療では標準治療を施行して根治性を高めることだけでなく、根治性のみならず整容性や生活の質を重視することが重要です。そのため、高い専門性と複数の科と連携したチーム医療の実践が求められます。
当科は乳癌診療の中心として位置しており、形成外科、遺伝子診療科、放射線治療科、病理診断科と連携した乳癌診療チームとして、診断から手術、薬物療法、放射線療法、緩和医療にあたっていることが特徴です。また、がん診療連携拠点病院として、新薬の治験、医師主導治験、各種臨床試験に数多く参加しており、乳癌患者さんに最先端医療の機会を提供し、乳癌診療の進歩に積極的に協力しております。乳癌について心配されている方、乳癌と診断され治療を頑張っている方のお役に立てるよう、スタッフ一同努めています。
ぜひ広島大学病院 乳腺外科にいらしてください。

乳がん

乳がんとは

乳がんは今や日本人女性の9人に1人が罹るとされ(2023年6月現在)、日本だけでなく世界中で女性が罹る第1位のがんです。(男性も乳がんになります。)一方で死亡率は第5位であり、早期に発見し・適切な治療を受けることで完治を目指すことができます。乳がんは体の表面に近い乳腺にできるため、自分で発見できる数少ないがんの1つです。乳がん検診を受けるだけでなく、日頃から乳房のセルフチェックを行い、気になる症状(乳房や腋のしこり、乳頭からの分泌物、乳房の痛み・腫れ・張り・変形など)を自覚したら、早めに病院を受診しましょう。

診断

診断について
乳がんの診断は、病理検査(針生検・吸引式組織生検)で行われます。生検の結果より、乳がんの種類や性格(サブタイプ)が分かるため、今後の治療方針が決まります。また乳房造影MRIにより乳がんの広がり、必要に応じて造影CTやPET/CTで全身に乳がんの転移があるか調べることもあります。乳がんは、非浸潤がん・浸潤がんに分かれます。非浸潤がんは、乳管の中でのみ増殖するがんなので、手術で切除すれば根治できます。一方で浸潤がんは腋窩リンパ節や他の臓器に転移する可能性があり、手術以外に薬物療法(ホルモン療法・化学療法・分子標的治療薬)が追加になることもあります。乳がんのサブタイプですが、女性ホルモンに依存して大きくなるタイプ(ホルモン受容体陽性)、抗HER2薬(分子標的治療薬)が有効なタイプ(HER2陽性)、ホルモン・HER2両方とも陽性のタイプ、両方とも陰性(トリプルネガティブ)のタイプの4種類に分かれます。

治療(治療方針の決定・手術・薬物療法)

【治療方針】
乳がんの治療は病期と、サブタイプにより決まります。病期は、浸潤がんの有無、大きさ、腋窩リンパ節転移の個数や部位、遠隔転移の有無で0期からⅣ期まで分かれます(乳がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp))。0期からⅢA期までが早期乳がんであり、手術が可能です。病期やサブタイプにより、術前に化学療法を行うこともあります。ⅢB/C期は化学療法でがんを小さくして初めて手術が可能です。Ⅳ期は他の臓器に転移がある状況であり、手術の適応はなく、薬物療法(ホルモン療法・化学療法)が主体となります。
 
【手術】
乳がんの手術は乳房部分切除術(乳房温存術)、乳房全切除術があります。乳房部分切除術の場合は、手術後に温存した乳房に放射線療法を行います。当院では乳がん手術と同時に形成外科で乳房再建術も可能であり、皮膚をできるだけ多く残す皮膚温存乳房全切除術や乳頭乳輪も残す乳頭温存乳房全切除術も選択できます。また、乳房部分切除術の場合、整容性を重視し、小さく目立ちにくい傷で手術を行うために内視鏡を使用することがあります。手術の適応・方針については術前に乳腺外科でカンファレンスを行い、十分な検討を行った後に決定しています。
 
【薬物療法について】
手術で切除した組織をもとに再度病理検査を行い、乳がんの大きさ、悪性度、サブタイプを診断、術前化学療法を行った場合は効果判定を行います。術後はこの結果を用いて治療方針が決まります。がんの大きさ、リンパ節転移の個数、悪性度によって術後に化学療法が必要になる事もあります。ホルモン受容体陽性HER2陰性のタイプでは、オンコタイプDXという検査で化学療法の必要性を判断することもあります。術前に化学療法を行った場合、術後にがんが完全に消えていなかった場合は、術後の化学療法の内容の追加・変更、内服の抗がん剤が必要になることがあります。当院では術後に治療方針決定のため、乳腺外科・病理診断科・放射線治療科科・臨床検査技師でカンファレンスを行い慎重に検討を行っています。
術後は定期的に診察・血液検査・マンモグラフィ・乳腺エコーを行いながら、10年間の経過観察を行います。ホルモン受容体陽性タイプの乳がんでは、術後ホルモン療法を内服で5-10年間(閉経前は10年間)行います。閉経前では状況により、卵巣機能抑制治療を5年間行うこともあります。ホルモン受容体陰性HER2陽性・トリプルネガティブタイプの場合は、基本的に術後に定期的な内服薬はありません。

Q&A

  • 乳がんで手術前に抗がん剤をすることになりました。どのような流れになるのか、教えてください。
    まず術前化学療法を約4-6か月間行い、その後手術を行います。術後の病理結果により、追加の抗がん剤が必要になることもあります。部分切除を行った場合、残った乳腺に放射線を照射します。またリンパ節転移がある場合、乳房全切除術でも全乳房照射が行われる事があります。放射線療法が無い場合、または放射線療法終了後、それぞれのサブタイプに応じて術後補助療法が行われます。

関連動画 ※日本乳癌学会作成

「乳房の手術」→動画はこちら
「センチネルリンパ節生検」→動画はこちら
「腋窩リンパ節郭清」→動画はこちら


 

遺伝性乳がん卵巣がん症候群

がんは様々な要因によって発生し、主に「遺伝要因」と「環境要因」の2つが関わっています。生まれながらに持っている遺伝子の変化が、がんの発症のしやすさに強く関わっている場合は「遺伝要因」とされます。
 
その代表的なものとして、乳がんではBRCA1/2という遺伝子があり、このような場合を「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」といいます。乳がん患者さんの全体の約5%の方が遺伝性乳がん卵巣がん症候群であることが分かっており、条件にあてはまる方は、遺伝カウンセリングや遺伝子検査をご案内しています。
 
BRCA1/2に変化を持っている方は、80歳までに約70%の確率で乳がん、20~40%で卵巣がんを発症することが分かっています。BRCA1/2遺伝子の変化は、性別にかかわりなく親から子へ50%の確率で受け継がれます。他にも前立腺がんや膵がんの発症リスクが上がると言われています。
 
保険診療でBRCA1/2遺伝子検査の対象となるのは、以下のいずれかにあてはまる方です。

乳がん患者さん

次のいずれかの項目に当てはまる場合、健康保険が適用されます。
  • 45歳以下の乳がん
  • 60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
  • 2個以上の乳がん(両側乳がんなど複数回の乳がん)
  • 第1~3度近親者*内に乳がん又は卵巣がん発症者がいる
  • 男性乳がん
  • 血縁者がBRCA1/2遺伝子に病的変化があるとわかっている
  • 分子標的薬:オラパリブの内服の適応か判断する場合
※第1~3度近親者;両親、きょうだい、子供、祖父母、孫、おじ、おば、おい、めい、曾祖父

卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの患者さん

年齢や家族歴に関わらず遺伝学的検査に健康保険が適用されます。
乳がんまたは卵巣がんを発症したことのある遺伝性乳がん卵巣がん症候群の方への対策は次のようなものがあります。
  • リスク低減手術(予防的手術):リスク低減乳房切除術、リスク低減卵管卵巣摘出術
  • MRIを含む乳房検診

Q&A

  • 母が乳がんの既往があるため、手術前に遺伝性の乳がんに関して検査できると言われました。手術前に検査をしないといけないのですか?
    検査で遺伝性乳がん卵巣がんと診断された場合には、手術の方法を乳房部分切除術(乳房温存術)よりも乳房全切除術が推奨されます。また、乳がんの手術と同時に反対側の乳房を予防的に切除することも相談できます。手術前に検査をするメリットをよく把握された上で、検査を受けるか決めてください。なお、手術前に検査を受けなくても、手術後に受けることもできます。

乳腺症

乳腺症は、20-40歳代女性に頻度の高い乳腺の良性疾患です。乳房がはる、痛む、しこりを感じるなどの症状が現れることがあります。明らかな原因は分かっていませんが、女性ホルモンバランスが関与していると考えられており、月経周期に応じて症状が変化することが特徴です。
良性疾患のため基本的には治療の必要はありません。強い痛みがある場合は内服治療を行う場合があります。

Q&A

  • 乳腺症と言われましたが、胸も痛いし心配です。日常生活で何か気を付ける事はありますか?
    確実な予防方法はありませんが、日頃から女性ホルモンバランスの乱れを引き起こさないように規則正しい生活を心がけ、定期的な検診を受けることが推奨されます。強い痛みがある場合は治療を行うこともありますので、病院で相談をしましょう。

乳管内乳頭腫

乳管内乳頭腫とは、乳管に発生する良性腫瘍の1つで、30-50歳代の女性に多い疾患です。無症状のことが多いですが、しこりの自覚や、乳頭からの分泌物で気付くことがあります。 乳管内乳頭腫は良性腫瘍のため、治療を必要としないことがほとんどです。しかし、乳がんとの区別が難しい場合がありますので、しこりが大きくなる場合や、血液が混ざった分泌物が続く場合は手術を相談することもあります。

Q&A

  • 乳管内乳頭腫と言われました。乳頭から血が出ていますが、ずっと様子を見てもいいのですか?
    血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫の症状の1つですが、乳がんとの区別が難しいこともありますので、定期的に検査を受けましょう。出血が気になる場合は、手術を相談することもできます。

線維腺腫

線維腺腫は乳腺良性腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍で、10~30歳代の女性に多く発生します。典型的な場合は、年齢や触診、画像検査(マンモグラフィ、乳房超音波検査など)で診断できますことが多いが、必要に応じて細胞診や針生検などの病理検査を行います。
通常、治療は必要なく、40~50歳を過ぎると自然に小さくなることもあります。ただし、3㎝以上のものや急速に大きくなるものは、別項目で説明する葉状腫瘍の可能性があるため、病理検査や手術を相談することがあります。

Q&A

  • 線維腺腫で経過観察と言われましたが、手術をしなくてもいいのでしょうか。「がん」になる事はありますか?
    通常、線維腺腫が「がん」に変わることはありません。ただし、3㎝以上のものや急速に大きくなるものは手術を相談する場合があります。

葉状腫瘍

葉状腫瘍は全乳房腫瘍の1%未満とまれな疾患です。画像検査や病理検査で診断を行います。良性、境界型、悪性に分類されます。
治療は手術での切除です。通常は乳房部分切除術を行いますが、腫瘍が大きい場合は乳房全切除術が必要になる場合があります。腫瘍をくりぬくような切除では局所再発のリスクが高いため、周囲の正常組織を含めて1㎝以上の余裕をもって切除することが推奨されています。また、葉状腫瘍が腋窩リンパ節に転移することはほとんどありませんので、腋窩リンパ節の手術は行いません。

Q&A

  • 葉状腫瘍と言われ手術になりましたが、良性でも手術しないといけないのですか?
    標準治療は手術での切除です。葉状腫瘍は良性でも急速に大きくなることがあり手術が必要です。また、針生検による一部の組織の検査だけでは、良性、境界型、悪性の判断が難しい場合があります。良性で十分な切除を行った場合、多くは手術のみで治癒します。